『気違い部落周游紀行』
きだみのる:『気違い部落周游紀行 』、冨山房、1981年初版
著者は本名の山田寅彦としても知られる明治後期から昭和にかけての碩学である。デュルケムの『社会学と哲学』やファーブルの『昆虫記』等、今日に至るまで日本人に大きな影響を与え続ける著作の翻訳を手がけたことでも知られている。
本書は、東京近郊の農村に著者が暮らしながら、心に刻んだ様々な事柄が独白の形で綴られている。差別用語とも受け取られかねない辛辣な用語を胸を張って表題に据えることができたのは著者が「部落」の当事者であり、けっして傍観者ではなかったからであるし、何より本書を通読すると、著者の「部落」に対する愛情を読み手までも共有することができ、爽快ですらある。
「森林(やま)」という言葉は、農村や山村をも含めて意識したい。
山村を考える際に、ついつい傍観者になりがちな我々に、その意識の貧困さを思い起こさせてくれる一冊である。
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コメント
米澤さま
大変ご無沙汰しております。
コメントありがとうございます。
『気違い・・・』は、私も大きなショックと影響をうけた一冊です。
川場村のことを考える上でも、強い影響を受けています。
今後とも種々ご指導いただきたいと思っておりますので、よろしくお願い申し上げます。
このブログにも沢山の嘘があることと思います。
お気づきの点をご指摘いただければ幸いです。
投稿: くま | 2008年7月 9日 (水) 11時35分
「うざったい」は八王子市郊外の方言?!
“森の案内人”です。
ご無沙汰していて申し訳ありません。
この Blog があることは知っていたのですが、一度覗いただけで、ずーっと忘れていました。
久しぶりに見て、あ、こんなにたくさん本の紹介があるんだ、と吸い寄せられました。
中でも懐かしかったのが「きちがい部落」です。
私が30歳くらいのとき、夢中になって読んだ本です。
「うざい」とか「うざったい」という言葉は今では若者達を中心に「全国区」になった言葉ですが、実は、きだみのるさんが採集し、記録し、「きちがい部落」で世に
出した言葉です。
恩方村は高尾山からすぐ近くでもあり、気にしていたのですが、地元の人にとっても、まさか村の方言が全国区になるとは予想もしていなかったことでしょう。
私にとって、「よそ者」が村で暮らすとどうなるか、また、村の暮らしの素顔はどういうものかを教えてくれた貴重な一冊でした。
投稿: 米澤邦昌 | 2008年7月 9日 (水) 11時05分