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2007年10月 1日 (月)

●森林(やま)仕事のゆったりとした時間●

「木に上っている時間と同じくらい鉈を研いでいた」とは腕のいい枝打ち職人の言葉。「研ぎもしないで刈ったって草より息が切れるだけ」とは下刈りの話。「トビの先はしょっちゅう叩いたな、焚き火でな、赤めてから叩くのよ。先が鈍れば仕事になんかならねえからな」とは伐出を生業とする木屋師。

高性能林業機械はおろかチェンソーすらなかった時代に育った林業家たちは、手道具を通じて仕事を体に染みこませた。

茶を飲み、紫煙をくゆらせ、緊張の連続である危険作業による心身の疲れを解すひとときに次の仕事の準備を怠らないのがよい職人だったそうだ。
先輩にお茶を淹れるくらいしか仕事のない茶坊主は焚き火をしながら湯を沸かし、先輩が道具を研ぐ技を盗み、次第に様々な技を自分のものにしていった。

そうした時間に彼らは様々な話もしたという。あそこの沢の橋が落ちかけているから架け直そうとか、どこの鍛冶屋は腕がたつとかといった大切な情報交換。旨い山菜やキノコが採れる場所はけっして誰にも教えなかったけれども、そうした場所を見つけるための目配りのポイントは言葉の端々から漏れていた。森林の恵みを最大限に活用するための知恵の伝達の時間でもあったのだ。ジムグリを若手に食わせておいて「旨いかね」「そいつは苦いだろ、マムシは旨いぜ」などと腕白坊主の顔に戻っての悪戯も後進を育てた。

手道具を使ってこその、そうしたゆったりとした時間を過ごすことで彼らはベテランの林業家に育っていった。

わが国が戦後の復興期を過ぎ、急速な経済発展を遂げるなるかで失っていったのは、こうしたゆったりとした時間の流れではなかっただろうか。それが許された遠い過去の、牧歌的な風景として語られることこそ多いこうした時間の流れは、実は、丁寧で真に効率的な時間の流れであった。

木材生産を生業とするプロの林業家たちには一定の速度が要求されるのも致し方のないことだが、市民が森林づくりに関わる強みは、こうした丁寧な時間を過ごすことが許されるところにある。

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コメント

Berryさん
コメントありがとうございます!
しかも過分にお褒めいただいて!
自分で忘れたくないことを書き散らかしているだけですので、お恥ずかしい限りですが、これからもお付き合いいただければ幸いです!

投稿: くま | 2007年10月 8日 (月) 22時22分

今更のコメントごめんなさい^^;
この日の日記、とてもいいですね☆

読んでいて、親方や職人さんのやり取りの
風景が目に浮かぶようです♪

急ぎすぎる時代、便利過ぎる機械、
スピード、効率、結果がすべての現代。

そんな中で失った物は、多すぎる気がします。。。
人が、人でなくなっていくような。。。
忘れてはいけない物が、この日の日記の中に
沢山見える気がします。。。

投稿: Berry | 2007年10月 8日 (月) 11時51分

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