『桶屋の挑戦』
加藤薫:『桶屋の挑戦 』、中公新書ラクレ(2008年初版)
勇気をもらえる本に出逢うことができた。
木材には実に多様な用途があり、本書で扱われる“桶”もその一つである。
盥(たらい)という桶で産湯をつかい、桶で仕込まれた食品で成長し、世を去る際にも桶に入る。
様々な新素材や新製品に圧されて、木製桶の出番はめっきり減ったものの、ほんの少し前までは、生活の様々な局面で桶が利用されていた。
工業分野でも、終戦までは、硫酸や塩酸、塗料や火薬などの容器として桶は必需品であった。
しかし本書は、そうした桶の歴史を回顧することに力点を置かず、桶に関わり現在を生きる人々を軽快に描いている。
桶づくりの虜になった職人は、各地で用無しになった古桶を買い集めて手を加え、新たな出番を用意する。
しばらく途絶していた新桶による日本酒の仕込みを再開したのはブロンドのアメリカ人女性。
味噌や味醂、なれ鮨、醤油、漬け物等々、様々な発酵食品を漬け込む桶は酒蔵の桶の再利用。
木という素材の価値に気づき、木を再び使うことを実行に移した人々のエピソードが気負いなく綴られ、力強く、明るい将来が展望されている。
森林を、林業を、山村を守り育てようと考えている人々に是非お勧めしたい一冊だ。
※本書執筆のための取材の成果が盛り込まれた“桶仕込み保存会”のホームページも併せてご覧戴きたい。
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