『にっぽんの知恵』
高田公理:『にっぽんの知恵 』、講談社現代新書、(2008年初版)
著者の高田公理(たかだ・まさとし)氏は京都大学理学部を卒業し、酒場を経営した経歴をもつユニークな社会学者である。
現在は武庫川女子大学で教鞭を振るっていらっしゃる。
本書は、2005年に、朝日新聞(大阪本社版)で連載された同名の企画を加筆・再録した一冊である。
書名からは、懐古主義的に、今はなき古き良き時代を振り返るような、よくあるタイプの書物と思ってしまうかもしれない。
しかし、本書で扱われるのは、銭湯・刀狩り・花見といった素材から、缶コーヒー・カラオケ・モバイルといった事象まで、実に多岐にわたっている。
著者は、「あまりにあたりまえすぎて誰もが気にもとめないモノやコト、戦後の急速な経済成長と引き換えに忘れてしまったモノやコトにあらためて光を当ててみる。…中略…あらためて「にっぽんの知恵」を学び直す-このことが、今後のわれわれの暮らし方の指針となり、あわせて現代社会の中に日本を位置づける出発点となるに違いない」という言葉で本書の冒頭を飾っている。
そして、ごく当たり前に、私たちの身の回りにある多彩な物事を紹介しながら、それらに通底するものは、関西で言う「ええかげん」だと結んでいる。
白か黒か、虚か実かという一元的な価値観ではなく、それらの間を柔軟に、しなやかに愉しみ、生きてきた「にっぽんの知恵」が本書では平明に解かれている。
森林(やま)づくりも、言うまでもなく主体は人間である。
その人間が、どのような文化的風土のもとに育ち、どのような価値観をもって生きているのかを直視しなければ、森林づくりが実を結ぶことはないだろう。
「人工の世界と大自然を分けながらつなぐ『縁側』空間」であるとして里山文化を読み解くこの一冊も、私たちの森林づくりにおおいに参考になるだろう。
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