『ニホンカモシカのたどった道』
小野勇一:『ニホンカモシカのたどった道 -野生動物との共生を探る-』、中公新書(2000年初版)
かつて“幻の動物”と呼ばれるほどに個体数を減らし、国の特別天然記念物に指定されたカモシカが、植林地に被害を与え駆除申請が相次ぐ“害獣”としての顔を持ち始めた。
私たちのフィールドである川場村でも、動物調査の目的で設置した自動撮影装置(カメラトラップ)にもしばしば記録される他、目撃情報も近年増加傾向にある。
森林(やま)づくりに関わる者にとって、野生生物との共存の問題は避けては通ることのできない重要な問題となってきている。
この問題を考える際に、徒な感情論に因ることは避けなければならないし、ましてや厭世家の夢想に結論を任せることもできない。
著者の小野氏は、九州大学理学部に籍を置き、その半生をカモシカ研究に捧げた動物生態学者である。
本書は、カモシカの生理・生態を平明に解説した上で、人間社会とカモシカの生息の併立の道を探る構成となっており、まさに地に足のついた自然保護論が展開されている。
森林を構成する様々な生物の営みを正しく理解すること、そして地域社会の歴史性を含めた特徴を見据えること、その何れを欠いても森林を保全することはできない。
森林(やま)づくりに関わるメンバーに一読を勧めたい一冊だ。
| 固定リンク
「森林づくりお薦めの新書2009」カテゴリの記事
- 『冬虫夏草ハンドブック』(2009.06.13)
- 『リンゴが教えてくれたこと』(2009.06.04)
- 『オトシブミハンドブック』(2009.05.18)
- 『朽ち木にあつまる虫ハンドブック』(2009.04.16)
- 『昆虫の集まる花ハンドブック』(2009.03.28)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント