キツネの由来
ある集落の外れに仕掛けた自動撮影装置には、頻繁に、様々な野生動物が記録されている。
民家がすぐそこに見えるほど集落に近い所なのに不思議なことだ。
古い時代から、こうして人間と野生動物の距離は近かったのだろう。
だからこそ、キツネやタヌキに化かされたりもした。
『日本霊異記(にほんりょういき)』という書物がある。
この書物は、奈良の薬師寺の景戒という僧侶によって平安初期に纏められた、わが国初の仏教説話集である。
この書物のなかに、キツネの語源と考えられている話が収められている。
ある若者が、野原を歩いていると、一人の美しい女に出遭う。
二人は、やがて子をなし、幸せに暮らすが、飼い犬だけはこの女になつくことはなかった。
実は、この女はキツネが化けたものだったのだ。
犬は敏感に、女がキツネであることを見抜き、吠えたてていたのだった。
ある日、女が食事の支度に取り掛かろうと家に入ると、そこにいた犬にいつも以上に吠えたてられてしまう。
あまりに愕いた女は、変化を解き、もとのキツネの姿に戻って野に帰ってしまう。
男は嘆き悲しみ、「なんじ我を忘れたか、子までなせし仲ではないか、来つ寝よ」と願ったという。
この話の最後の言葉、「来つ寝よ」は現代風にいえば、「夜には寒い野原などにいないで、家に入ってきて寝たらどうだい」というような意味であろう。
この「来つ寝よ」がキツネの語源になったというのである。
かつて、このブログで紹介した、『日本人はなぜキツネにだまされなくなったのか』という書籍にも詳しいが、人間と野生動物の距離は近かったのだ。
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