先日、世田谷区民健康村なかのビレジのスタッフが綴るブログを見ていると、ニホンカモシカのことを、川場村の人々は“くらしし”と呼んでいたことが紹介されていた。
多くの方々に野生動物に関する話を聞いてまわっているのだが、全くもって初耳であった。
“しし”は肉用動物全般を指す言葉であることは分かっているので、残りは“くら”である。
気になって調べてみると、環境省の生物多様性センターが1987年に出している報告書の中で、カモシカの古名・地方名について整理されていた。
かもしし・あおしし・けらしし・にく・にくしし・いわしし・いぬしし…等々、多様に紹介されているなかに“くらしし”もあった。
ところがこの報告書では、名の由来までは触れられておらず、確かにカモシカのことを“くらしし”と呼んだ時代・地方が存在していたことは分かったものの、その由来についての記述はなく、謎のままなのだ。
そこで、別の資料・文献にあたってみると次のようなことが分かってきた。
“くらしし”の“くら”とは“座(くら)”または“鞍”と書き表すのが正解のようで、どちらも“座る場所=居場所”を指す言葉らしい。
かつてこのブログでも、カモシカの名の由来について、毛皮を敷物に利用した動物であることから名付けられたことをお伝えしたが、これにも通じるようだ。
また、“一の倉(くら)”などというように、山の名としても“くら”という音は多用されるし、山を数えるときに一座・二座と数えることからも明らかなように、“座(ざ)”という言葉も山を意味している。
推測の域をでないが、これは山を神の居場所として意識したことからきているのではないだろうか。
山地に棲むカモシカを、“しし”の前に“座(くら)=山”の音を冠し“くらしし”と呼んだというのも分かりやすい。
どちらも説得力ある説であるし、その根が同じところにありそうなことも、また面白い。
古名・地方名を温ねるのも、いにしえの人々がどのようにその生物を認識していたのかが分かり愉しいものである。
(2010/11/28 川場湯原地区太郎)
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